大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡地方裁判所 昭和57年(ワ)242号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

原告は本件工事が特約により無断でなすことを禁止された増改築工事に該当すると主張し、被告はこれと反対の主張をなすので、この点につき検討する。

1 前述のとおり、本件土地賃貸借契約には地上建物の設置に関する禁止特約が付いていることは争いがないが、その内容は、成立に争いのない甲第一号証の「土地賃貸借契約公正証書」第九条によれば、「(賃借人は)賃借物使用の目的又は土地の形状を変更し、若しくは工作物を施設せんとするときは予め(賃貸人の)承諾を受くべし」というものであり、同第二条で賃貸借の目的は「家屋建築」とされ、かつ、前示争いのない事実によれば右公正証書による契約締結時には、既に本件土地上に亡笠田正一が建物を建築所有していたことからすると、右第九条にいう「工作物を施設せんとするとき」という文言は、直接には、既存の建物以外の建築物を本件土地の他の部分上に新築する場合を指すと解すべきことになるが、当事者の意思としては、この他に既存の建物に建増部分を付加する形で増築し、あるいは既存の建物を解体して新たな建物に改築する場合など、地上建物の種別、規模、耐用年数などに大幅な変更を生じ、もつて借地使用状況に一大変化をもたらす場合を含む趣旨であると解するのが相当である。しかし、右特約が、それ以上に右の大幅変更に至らない程度のものを含め、一切の改造ないし補修工事をなすについても貸主の承諾を要するとまで定めたものとは、その文言上解釈することはできないし、建物に手を加える場合のすべてを含むという当事者間の合意のうえでこれが締結されたことを認めるに足りる証拠もない。

2 <証拠>によれば、本件工事の内容は、

(1) 従来板壁で囲われ、四畳半ほどの居室、便所及び石炭風呂の置かれた土間からなつていた本件建物西側の張り出し部分につき、右板壁を八ないし九段積みのブロック壁にトタン板張部分を乗せた外壁とし、内部の居室などを取払つて新たに土間のままの車庫、ガス風呂をそなえた内壁タイル張りの浴室、洗面所及び物置を設置した工事。同張り出し部分のトタン葺き屋根も新たに張替えられたが、内部の天井部分は大部分従来のまま残され、また、張り出し部分の面積は本件工事の前後でほとんど変つていない。

(2) 外壁張替工事。従来の木製板壁を新たにトタン板で張り直した。

(3) 玄関工事。従来の木造玄関の戸をアルミサッシ格子のガラス戸とし、土間部分をタイル張りとした。

(4) 座敷、縁側及び納戸の戸のサッシ工事。これらをすべてアルミサッシに取替えた。

(5) 北東側便所の屋根葺替工事。波型トタン板を新しく葺替えた。というものであることが認められ、この認定を覆えすべき証拠はない。

右事実によれば、本件工事は単なる部分的改修工事の域を出ず、前記特約によつて貸主たる原告の承諾を要するとされた増改築工事には該らないと認められ、したがつてこれにつき原告の承諾がなかつたことを理由に契約を解除することはできないといわざるをえない。

すなわち、右(1)の工事は、従来の張り出し部分と比べると、外壁の構造材質、内部の配置、使用目的、構造、設備などが一新され、この部分のみを見る限り、旧来の建物部分を解体して新たな建物部分を建築したとみることもできないではない。しかし、これは従来からあつたものを改良したにすぎず、改築には該当しても増築というのは不適当であり、しかも、右改良工事を施した張り出し部分は本件建物の建坪の約三分の一程度を占めるだけで、機能的にも根幹をなす部分ではなく、右改良工事の結果、本件建物の構造、材質、使用目的、耐用年数などに顕著な変化を生じたとも認められず、もとより建物としての同一性の有無にいささかでも影響を及ぼしたとも認められない。

その他の工事が単なる補修ないし改修工事にすぎないことは改めて検討するまでもなく明らかである。

(池谷泉)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!